仮に事業が順調で個人事業主として一定の収入を得られるのであれば、青色申告をしたとしても、最高65万円の特別控除を差し引いた金額に所得税率を掛けて、納税額が決定してしまいます。この税率は累進課税の原則そのままであり、法人のような優遇措置はありません。その一方で会社であれば、経営者の給与は役員報酬などという形で支払われますが、これは課税の際には会社の事業収入から経費として差し引かれることになります。更にこの経営者に支払われる給与は、そっくり経営者自身が支払う個人の所得税を算定する上で、給与所得控除の対象になります。そのため事業収入の金額が一定以上の場合、すべてが個人の収入として計算されてしまう個人事業主に対して、会社組織を作った方が法人税と個人としての所得税とを加えても、より税金が低く抑えらえれる計算になります。
役員報酬以外で節税の範囲が広がる項目としては、下記のようなものがあります。
1.退職金の支給・・・個人事業主の場合は退職金の支払いができませんでしたが、法人では退職金を自分自身や家族に支払うことで節税が可能です。
2.役員社宅・・・個人事業主は自宅を事業に使用していない場合は住居費を費用にすることが出来ません。しかし、法人の場合は賃貸住宅の大家と法人が直接契約をして社長に貸し付けを行えば、家賃の半分を会社の経費として処理することが出来ます。
3.生命保険料・・・個人事業主が生命保険料を支払う場合は最大で12万円の所得控除となりますが、法人の場合は全額を法人の費用とすることができます。保険金額が大きくなればなるほど、節税効果に差が出てきます。
4.慰安旅行・・・個人事業の場合は、慰安旅行を家族で行ったとしても事業の費用にすることができません。しかし、法人の場合には福利厚生費として費用に計上することができます。ただし、慰安旅行の期間は4泊5日以内、費用は1人10万円以下などの一定条件を満たす必要があります。
上記のように、法人化することで個人事業主よりも節税の範囲が広がります。しかし、法人化によって、個人事業主にはない運用コストがかかることも考える必要があります。具体的な例をあげると、法人化した場合は、個人事業主の場合に比べて税務処理が複雑になるため、税務申告や経理処理の際に税理士や公認会計士への依頼が必要になる点です。また、赤字の場合の課税が個人事業主の場合はゼロであったのが法人では最低7万円になります。その他にも、個人事業主では社会保険を適用しなくてよい範囲がありますが、法人では全て強制適用となります。よって、法人化にあたっては節税範囲の増加と運用コストの増加のバランスを考えて検討する必要があります。